小泉清亮 Episode 2

2010 トレモリーノス再訪計画  文:ebi

計画のきっかけはGoogle Earthだった。
その日僕は前日に見たTV番組で気になった場所をGoogleで調べていたのだが、その時初めて海外の街でもStreet Viewが使えることがわかり、ふと思い立ってスペインのトレモリーノスという街を調べてみることにした。
その街にはかつて彼がしばらく滞在していた日本食レストランがあるはずだったからだ。
そして彼がその地を発つ前その店の外壁一面に絵を描いたと聞いていたので、今でも残っているならひょっとしてStreet Viewで見られるのではないかと思ったのである。
昔の手紙の束を引っ張り出して探してみるとその住所が書かれているものが見つかった。
さっそく入力して検索してみる。
スペインでも屈指のリゾート地であるトレモリーノス。やはり思った通りだ。Street Viewが使える。
僕のパソコンの画面の中に素敵な光景が映し出された。
石畳の道路、白い街並み、路上駐車のヨーロッパ製の小型車の列。夏に撮影されたものらしい、通りを歩いている人々は皆半そでのTシャツかタンクトップを着ている。上向きに角度を変えると日本の空とは違う種類の青さの空が広がっていた。日差しが強いことが画面でもわかる。
表示された場所で360°ぐるりと辺りを見渡してみるが、それらしきものは見当たらない。
住所には何々通りとまでしか書かれていないので辺りをパソコンでウロウロしてみるがそれらしき建物は見つからない。
そこで僕はその画面の写メを撮って彼にメールしてみた。この風景見たことない?と。

しばらくして返信が来た。
「トレモリーノスでしょう?懐かしいな。この場所に見覚えがあるよ。」
僕は事情を説明し、何処にあるのかを尋ねた。
「その角を右に進んで次の交差点の右側だと思う。」
言われた通りに右に向かって進んでいくがしばらく進んでも交差点は現れない。途中で遊歩道のような細い路地が現れたので一応また写メを送ってみる。
なぜわざわざ写メなのかというと彼のパソコンはネットに接続されていないからだ。
「何処だここは?見たことないな。」
最初の角を曲がってからの距離を尋ねると100m〜200m位の距離らしい。
しかしその距離に次の交差点はない。
20年前の記憶、遠い異国の地の路地、写メでの中継。まずい、悪条件が重なりすぎている。
致命的なのは彼が元々ひどい方向音痴だという点である。
スペイン国内を列車で移動中、前日と逆方向の列車に乗って半日間違いに気付かなかったほどの強者である。

僕は彼の記憶をたどるのはあきらめて別の方面からアプローチしてみることにした。
彼のお世話になっていた店の名前で探してみた。
そして見つけたのがこのページにもリンクが張ってある コスタ・アミーゴス のサイトだった。
そこにはその店のオーナーと思われる人物の写真も載っていたので、またそれを写メにとって彼に送信してみた。
「この人じゃない?」
「そうそう!ジョーさんだ!懐かしい!」
しかしジョーさんはすでに亡くなっていた。
僕はそのことを彼に伝えた。

それから数日経って彼から連絡があった。
コスタ・アミーゴスの方と連絡を取りジョーさんのことを聞いたそうだ。
スペインの共同墓地に埋葬されたらしい。
「ねえ、スペイン行こうか?」
僕は彼にそう言ってみた。
僕はこの数日間、ジョーさんとは別に、彼の描いた絵がどうしても見たくなっていた。
「そうだね、これは何かの前兆かもしれない。すべてがつながってきている。」

結論から言うと僕達はこの計画を延期した。
日程を決め、航空会社を選び、パスポートまで取ったのに色々なしがらみやその他の諸事情が僕たちの旅を拒んだ。
今思えばそれはこのサイトを作るための前兆だったのかもしれない。
僕らはいつかきっともう一度計画を立てる。そして今度は必ず実行するだろう。
もしかしたらその頃にはもう彼の描いた絵は残っていないかもしれない。
スペインの日差しは強烈だからもう消えてるかもしれないよ、と彼はよく言っていた。
だから消えてしまう前にどうしても見てみたかった。
でも今なら僕はこう言うだろう。
「消えてるかもしれない?じゃあ新しく絵描きに行こうぜ!」と。

太陽の海岸線 Costa del Sol
『 太陽の海岸線 Costa del Sol 』
   アクリル 727×6180
その稜線につながる
空も太陽も、海も山も、植物も動物も、
時も心も、色や形も音も

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