Ebisode 3

窓

RAINEY PARK  文:ebi

学校に通い始めるのはまだ2週間先だった。
翌日僕は近所を散策することにした。クイーンズはわりと安全な地区だと聞いていたけど一人で知らない場所をウロウロするのはやはり少し不安だった。とりあえずイーストリバーまで歩いてみることにした。距離にすると1.5〜2キロ程だったと思う。
駅前にはグロサリーストア、デリ、コインランドリー、花屋、テイクアウト専門のチャイニーズフードなんかの商店が並んでいた。イーストリバーに向かって駅前の通りを西に向かう。少し歩くとスーパーマーケットがあった。
ここは食料品が主で昨日マットレスなんかを買った大型のショッピングセンターより近くてこじんまりとしていて便利そうだった。後日何度もこの店に買い物にきたのだが、毎回この店のレジの女の店員のやる気ゼロの態度と作業の遅さには辟易とさせられた。いつもガムをくちゃくちゃとかみながら隣のレジの店員とのお喋りに忙しく、並んだ客は遅々として進まない。
しかも客のほうも大型のカートにこれでもかというほど山盛りに買い物するのでもう最悪である。一週間分(多分、一週間分だよな?2、3日分じゃないよな?)をまとめて買う人がアメリカには多いようだ。
また商品自体もデカいのが多い。5リットル(!)のペットボトルのダイエットペプシを何本もカートに入れているのだ。5リットルのペットボトルも初めて見たが、とにかくなにもかもがデカい。
冷凍食品のパッケージもシリアルも全てがデカい。太る訳だ。
そんなアメリカのスーパーマーケットだが一つだけ良い点がある。エクスプレスレジの存在だ。これは一つ二つしか買わない人専用のレジで、一つ二つしか商品を買わない人がわざわざ沢山買い込む人の列に並んでイライラしなくてすむという素晴らしい制度である。これは是非日本にも取り入れてほしいものだが20年経っても日本では見たことがない、残念である。
スーパーマーケットを過ぎて団地やらスポーツ施設らしきものを過ぎるとだんだんとあたりは自動車修理工場や倉庫、何かはわからないが何かを作っている工場なんかが多くなり、風景が変わってくる。殺風景で低い建物が多くなりなんとなく寂れた感じだ。
事前に地図で通り2本北側の川辺に公園らしきものがあるのを確認していたので突き当たりを右に進むと程なく公園が見えてきた。
何か飲み物が欲しいなと辺りを見回すと少し離れた所にデリらしきものが見えたので僕はそこでビールを買って紙袋に入れてもらう。ニューヨークでは外でアルコールを飲むことが法律上禁止されていて、飲むには紙袋から出さないでラベルが見えないようにして飲まなければいけないのだ。
僕は紙袋片手に公園まで戻りイーストリバーとその向こうのマンハッタンのビル群が見渡せるベンチに腰を降ろした。昼間に目の前に広がるマンハッタンは昨夜とはまた別の感動があった。
やはりデカい。全てが。
僕はバドワイザーの缶のプルダブを開けて紙袋に包んだままごくごくと一気に飲んだ。
結構な距離を歩いたうえにその日は4月にしては暑いくらいの陽気で太陽もガンガンに照り付けていたからTシャツとジーンズといった格好でも暑くて汗が止まらなかった。
ビールを飲んでしまうと僕はタバコに火を付けてしばらく目の前に広がる景色を眺めていた。
イーストリバーには中洲があってその中洲とマンハッタンの間を時折観光客を乗せた遊覧船が通り過ぎていった。川面はどんよりとして波はあまりなかったが流れは速そうだ。
どれくらい深いのかと考えていると、一人の黒人が僕のもとに近づいてきた。
彼は僕の前に立つと
「ライターもってるか?」
と聞いてきた。
僕のライターはその頃お気に入りのジッポーだったので、ヤバい、渡したら取られる、と思い
「ノー」
と答えた。すると彼は
「ノー?」
おかしいなぁといった感じに首を傾げ行ってしまった。目で彼を追うと少し離れた芝生の上にいる彼女らしき黒人の女性の所へ戻っていった。
どうやら彼は本当に火を借りにきただけのようだった。
きっと僕がタバコを吸っているのを見てライターを持っているのを確認していたのだろう。それがわかって少しほっとしたが、同時にもうタバコを吸う訳にはいかなくなってしまい、申し訳ないことしちゃったなと思いながら居心地が悪くなってすごすごとベンチから離れた。
帰り際公園の入り口のプレートに公園の名前を見つけた。
Rainey Park
素敵な名前だ。
僕はこの公園が好きになった。
次回へ続く...

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